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ござ先輩と言われています。(株) クオリティスタートという会社をやっています。

ハイテクの日本がエンジニアを枯渇させている

NewYorkTimesにこんな記事がありました。日本の理系離れについてまとめられた良記事です。今日はこの記事の紹介。ぜひ原文にトライしてください。

理系離れが日本で進んでいるから理系の大学がやっきになって入学者集めにやっきになっていることや、日系の会社でもゆっくりと外国人エンジニアの採用やインドやベトナムに仕事を発注し始めているという記述から始まっています。

It was engineering prowess that lifted this nation from postwar defeat to economic superpower. But according to educators, executives and young Japanese themselves, the young here are behaving more like Americans: choosing better-paying fields like finance and medicine, or more purely creative careers, like the arts, rather than following their salaryman fathers into the unglamorous world of manufacturing.

この国を敗戦国から経済大国にしたのは紛れもなく優れたエンジニアリング能力なのに、教育者、経営者、若い日本人自身もが「アメリカ人」のように振舞っていると言っています。「ものづくり」のような地味な世界にいる「サラリーマンのお父さん」を追随するよりも金融や医療のような収入の高い分野、芸術のような純粋に創造性の高い分野を選んでいる、と。

The problem is likely to worsen because Japan has one of the lowest birthrates in the world. “Japan is sitting on a demographic time bomb,” said Kazuhiro Asakawa, a professor of business at Keio University. “An explosion is going to take place. They see it coming, but no one is doing enough about it.”

この問題はもっと悪くなるだろうと言っています。なぜなら、日本が世界でも最も低い出生率だから、と。日本には人口的時限爆弾の上に座っている、いつかそれは爆発するけど、誰も十分な対策を打っていない、と続きます。ドラッガーも最も関心を払うべき変化は人口構造の変化である、と述べていますよね。

Afraid of a hollowing-out of its vaunted technology industries, Japan has been scrambling to entice more of its younger citizens back into the sciences and engineering. But labor experts say the belated measures are limited and unlikely to fix the problem.In the meantime, the country has slowly begun to accept more foreign engineers, but nowhere near the number that industry needs.

As a result, some companies are moving research jobs to India and Vietnam because they say it is easier than bringing non-Japanese employees here.

誇示されている技術産業の空洞化を恐れて、日本は科学やエンジニアリングに若い人たちを取り戻すために彼らの気を引こう慌てふためいているけれど、雇用の専門家はその効果は限定的で問題を是正するまでにはいたってないと指摘している、と。しばらくの間、日本はゆっくりともっと多くの外国人エンジニアを受け入れ始めることになるが、技術産業が必要するだけの人間を集められるところはどこにも無い、と。

その結果、いくつかの会社がインドやベトナムに調査の仕事を移行している、と。だって、非日本人の従業員を持ってくるより簡単だから、と。それなんて「My Job went to an India?*1

で、こういった情勢に対してある意味得しているのが、理系の学生さんだよと言っています。ちょっとした事例紹介が続きます。仕事を見つける必要なんて無いよ、向こうが僕らを探すから。21世紀初頭に就職活動をした僕には考えられない刺激的な記述。でも一方で、そんなもん「ゆで蛙」でしかないだろと鋭く突っ込んでいるのがNYTのいい所。

One source Japan has not yet fully tapped is foreign workers - unlike Silicon Valley, filled with specialists in information technology, or IT, from developing nations like India and China.(中略)

“Japan is losing out in the global market for top IT engineers,” said Anthony D’Costa, a professor at Copenhagen Business School, who has studied the migration of Indian engineers.

Companies are scrambling to change tactics now.

日本はまだまだ十分に外国人労働者を開拓できていない、インドや中国のような途上国から情報技術の専門家であふれているシリコンバレーのような場所が無いじゃないか、と。そして、日本はトップのITエンジニアにとって国際的な市場ではなくなっている、と。市場価値が無いとインド人エンジニアの移住について研究しているビジネススクールの教授が指摘しています。

今、企業らは戦略を変えていこうと慌てふためいている・・・。なんというガイアの夜明けメソッド。

ということで富士通の事例紹介が始まるのですが、いいことばかりではないぞと突っ込む所がまたしてもNYT。

Nonetheless, labor experts warn Japan may be doing too little, too late. They say the country has already gained a negative reputation as discriminating against foreign employees, with weak job guarantees and glass ceilings. Experts say Indian and other engineers will often opt for more open markets like the United States.

それにもかかわらず、雇用の専門家は日本はあまりも小さく、あまりにも遅い行動を取っているのではないかと警鐘を鳴らしている。日本は脆弱な雇用保障とグラスシーリングにとって違いのわかる外国人雇用者に対してネガディブな評判を与えてしまっている。専門家たちはインド人やほかのエンジニア達は、アメリカのようなもっと開かれたマーケットを選ぶだろうね、と。

僕の感想

真っ先に思い起こされたのが、この2つのエントリ。

私は全くコンピュータサイエンスを学んだことがない人間で、新卒でプログラミングを始めた人間です。「Javaってなに?」とか言ってました。本当にありがとうございました。それはおいといて、いわゆるSIerと呼ばれている業種がITサービスではなくて人材サービス業の色が強いことも否定できません。事実です。圧倒的にソフトウェア技術者が国全体で足りなくなって、未熟でも何でもいいから突っ込んだれやスキームが出来上がってこの業界は大きくなりました。こういう人材サービスの側面が強いから、中にいる人たちはどうしてもドメスティックな経営戦略になります。プロダクトを作って知恵で稼ぐのであると言っている会社はいっぱいあると思うけど、実際に成果が出ているとはとてもとてもとてもとても・・・。だって、それは自分たちの存在意義を否定することになるはずで。そんな発想のかけらも重鎮様には無いと思います。期待するだけ無理だと思う。

また何とかしなくてはならないのが、グラスシーリング。

仕事の成果と年齢は比例するものではありません。仕事の成果と国籍は比例関係にはありません。全く無関係です。技術なんて特にそうで、15歳のプログラマが35歳のプログラマを圧倒することが実際に起こりえます。でも、日本の会社は基本的に飛び級が出来ない。順番待ちが必要です。肩書きもクソもなくコードという世界共通語で戦わなくてはならない世界なんだから、年功序列とか男女の壁とか国籍にこだわったら誰も来ない。タコツボの最下層なら来てもいいよって言われて、いやぁ〜そこは実に居心地が良いですよねって喜んで来る人がいるわけがない・・・。多様性を飲み込むなら、人事制度も柔軟に設計せざるを得ない。

そんなこと言っても、実際に日本企業で働いている人たちには生活もあれば何もあって。彼らをFireしてもそれを再就職できるような転職マーケットがあるわけでもないので、中の人は転職ジプシーにおちぶれていくのが自明なのはわかっていて。だから、しがみつく。しょうがないこと。サバイブするために、彼らには彼らの理があるわけだしね。

エンジニアの価値を認めたビジネスモデルの確立をっていうクリシェは聞き飽きたけれど、人材サービス業が縮小していくのは目に見えているはずで。みんなバカじゃないからね。でも、どうしていいか分からないんだと思う。なんとなくヤバそうだけど、別に飯を食うのに困っているわけじゃないしって感覚。SIerは先進的で圧倒的な技術でご飯を食べているわけではないので。飯を食えているのはRubyでもPythonでもなく、VBであったりCOBOLであったりするわけで。Rubyで飯を食えるなんて楽観的に考えないほうがいいです。Rubyを煽っている人たちに食い物にされちゃうかも。そんなに世の中急には変わらないよ。

これからの時代ますます物理的なモノが売れなくなっていく時代に勝負となるのは、企画やデザインでありITによる仕組みの確立のはずだと考えています。消費前提の経済拡大があるとは思えない。僕の親戚の経営者もますますモノが売れなくなってきてものすごく厳しい時代に突入したと、顔を合わすたびに言っている。

世界の人口が70億人になろうとしている。40年前は30億だったのに。そして地球環境が異常をきたし、温暖化が目に見えてきた。このままエネルギーを使い、消費を促して経済を拡大させる事の延長に人類の未来があるとは思えない。若者は数年前から自動車に乗る事よりも緩く自転車や歩く事を選び始めている。実際、都会の若者は別に18歳になっても免許を取らなくても平気だろう。

今までの消費指向が徐々に崩れ始めている。お金や消費の数的なものから、質的な上昇や精神的深さによる満足に変わって行くのではないか。すなわち人々の関心は創造的な喜びや文化的楽しみに移行し、また異性の感覚や国際的な感覚も判らないと時代から取り残される。

孤立という貧困に立たされてしまう前にすべきことは何なんだろう? それを考えたい。

*1:[asin:4274066592]

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