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ござ先輩と言われています。(株) クオリティスタートという会社をやっています。

人月商売が悪だと思っている、イノセントなあなたへ

色んな意味で示唆的なエントリ。山本さん、どうしちゃったんですか。飲みにでも行きますか。

人月は悪どころか、ものすごい善かもしれない - 山本大@クロノスの日記

140文字ぐらいでまとめちゃうと、人月ではなくソフトウエアの持つ価値だけでお金を取ろうとすると、例えばスマホアプリの場合は非常に単価が安いのでペイする算段が立たないこともある。それを鑑みると、エンジニアの稼働ベースで請求できる人月ってなんだかんだでイイとこあるよ、って話です。

人月について語られる記事はエンジニアよりの観点で議論されることが多いんですが、そうなると「人月はエンジニアにとって善か悪か」という方向に話が飛んでしまい、ゼネコンは死ねば良いし多重請負は終わってるし日本のIT競争力はなんだかんだっていう感じで一定の結論が出しにくい。なので、もっとビジネスよりの観点で整理してみたい。

人月のメリットは成果物ではなく作業内容に対して請求できるということ。最終成果物がどんなものであれ、単価の中にコストを含み入れることが出来る。どんな案件においてもエンジニアの稼働を確保できるのが大きいですよね。これがレベニューシェアだとシステム屋にとってはリスクが高くなります。赤になる恐れがあるという意味で。こう書いてしまうと、人月でも赤になるぞってツッコミが結構あるんですけど、それはプロジェクトの進め方が問題なだけであって人月が原因じゃないです。

翻ってデメリットを考えると、まず上げられるのはスケールしないこと。人に対して課金するのは人材サービス業ですから、サービスをする人間はスケールできませんよね。プロダクトを売ってるわけではないので、当然と言えば当然のこと。また、バカでも優秀でも同じ金額になるので優秀な人は生きるのが辛くなります。単価が同じだと仮定して、ダメな人は1ヶ月かかり優秀な人が1週間で完遂できる仕事があるとします。そうなると、優秀な人が損をします。1ヶ月で出来る仕事を1週間で出来る人間には1週間分だけのお金を払えばいいじゃない、ということになってしまうからです。その人だけ2倍〜3倍の単価設定ができるわけでもない。

ここまで整理すれば、人月は良いか悪いかというのは相性の問題でしかないということが導けるでしょう。人月がダメなら、フリーエンジニアはほとんどダメということになります。彼らは生活がかかってるから、成果物に対する対価と言うよりも時間の拘束自体に請求をしなくてはハイリスクになる。もっと言えば、食っていけなくなる。なので、単価設定をするしかない。それって人月じゃないですか。

それに、永和さんや倉貫さんの会社が取り組んでいるアジャイルを活かす為の受託開発も、人月請求です。プロダクトで請求するわけではなく稼働に対して課金するのは同じ。良い職人が良い料理を作りますので、対価を払って下さいというサービス業ですから。もちろん、多重構造における人月の意味合いとは全く違う。だけど、そーゆービジネスを拍手喝采してるのに人月は悪だってドヤ顔するのはイノセント過ぎると思うんですよ。ピンハネと人月は混ぜて議論するとロクな結論になりませんが、人月とピンハネの相性はすごくイイから混乱しやすいし、ホント困りものです。

人月はサービス業との相性がすこぶる良いんですよ。実際問題。そこはもう認めましょう。同時に、知識産業との相性は最悪です。そこも押さえておくべきポイントです。

エンジニアを腐るほど集めてもfacebookTwitterを作れる理由にはならない。F1作りたいのに軽自動車しか設計できない人間集めても無駄ってことは、誰でも分かる。そこを踏まえたうえで、IT産業にはプロフェッショナルな人材サービス業と言う側面と、facebookTwitterのようなスケーラブルなWebサービスやプロダクトを出す知識産業という二面性があるのであれば、人月を正しく活かすことも出来るのではないかと思うのです。活かすためには、色んな条件をクリアする必要がありながらも。

自分の仕事の対価は給料じゃないんですよ。顧客が払ってくれるお金です。そこの認識が甘いのに、業界云々語ったりSIオワコンだからって言ってWebサービス会社に移っても、多分あなたを包む閉塞感や問題は何も変わらない。最終的にはビジネスモデルとの相性であり、費用対効果というROIの問題にならざるを得ません。それが何を意味しているかというと、技術力があっても解決できない問題を解決してこそ、その技術力が活かせるし生きてくるんですよ。そこに関心が向かないと。ピンハネをDISって終わりにするのは簡単。あれが悪いこれが悪いなんて誰でも言える。でもそれをひとつ上の観点から整理して何故こうなっているのかという話が出来ないと、業界の立ち位置は変わらないから良くならないし、エンジニアのキャリア設計を考える上でもマイナス。そのたたき台を提供していけたらと思っています。