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【書評】虹を待つ彼女 〜AIが織り成す心の螺旋階段を駆け下りていくミステリー〜

友人が横溝正史ミステリ大賞を受賞されまして、その処女作を読了したので感想を書きます。ネタバレしないから大丈夫です。

虹を待つ彼女

虹を待つ彼女

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あらすじ

舞台は渋谷のスクランブル交差点から始まります。カルト的人気を博した女性ゲームクリエイター水科晴は重度の病に侵されていました。その彼女が選んだ最期は、自身が作り上げたオンラインゲームの標的となること。ゲームに登場したゾンビは、水科晴自身。ゲーマーの操作するドローンは本当の銃を詰んだ渋谷のスクランブル交差点の上を飛んでいるドローン。そして、彼女は銃撃されて死を遂げます。

ソフトウエアのプログラマーである工藤は、「フリクト」という人工知能のサービスを開発者。人工知能という制御できないプログラムをプログラムすることに技術者として面白さを感じていたが、フリクト自身は完成されており(色んな理由で)ユーザーが少しづつ離れていった。そんな時、人工知能の別の可能性として「死者を人工知能として蘇らせる」というプロジェクトの発足が決定する。その試作品の対象に選ばれたのは、水科晴。

工藤は水科晴の人工知能を完成させるべく、水科晴の調査を開始する。彼女が衝撃的な死を選んだ理由、断片的なエピソード、開発したゲーム、彼女を知る人物。それらを追っていく中で晴への渇望を抑えきれなくなる工藤の前に「晴の調査を辞めないと殺す」という脅迫者が現れ…

こんな感じのあらすじです。

人工知能の社会性

このミステリーを読む中で考えたのは「人工知能の持つ可能性と社会性」でした。死者を人工知能で蘇らせるというアイデアは近未来的にあり得ますし、短期的には恋愛シミュレーションも作ることが出来る。自律する学習回路があるコンピュータの持つ可能性の大きさと、その可能性が諸刃の剣にならないための社会性。社会のインフラとなり得るために守らなくてはならない制約と言うか秩序というか、そういうものをどう設計したら良いのか。そういったことを頭に巡らせながら読むとより一層楽しめます。

工藤と晴

この二人の思いが交錯する所が本書の面白い所なので多くは語れませんが、うまいなあと思ったのは展開はミステリアスなんですよ。進み方はとてもミステリアス。でも、エポックとなっている出来事は、じわっと感情が揺さぶられる。このバランス感覚が、次へ次へという期待を胸に読み進める力となっているように思います。僕は第一部だけで読んで、ちょっと置いてから一気読みしましたが、ラストの展開は完全に外しました!

虹を待つ彼女

カバーにも書いてあるんですが、この小説には「雨」という人物が登場します。水科”晴”と”雨”です。そして、タイトルには「虹」を待っている人物がいます。晴と雨と虹。僕が一番ぐっときたのは、この3者の関係性でした。皆さんも、晴と雨、そしてそれらが織り成す虹という自然現象の意味を頭に巡らせながら、ラストまで読み進めて欲しいです。完成度の高さに舌を巻くと思いますから。

ミステリー小説なんて西村京太郎しか読んだことがなく、森博嗣ですら完全スルーした僕ですが、ストーリーが良く練れていて面白かったです。この書評を30分で一気に書きあげることが出来ました。ミステリー小説に縁がない方も、是非お手にとってご覧頂けたら。

虹を待つ彼女

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