最近仕事で出版業界のシステム関連でお仕事をする機会を頂き、特に出版流通について勉強する必要があったため、下記書籍を購入しました。
- 作者: 田中達治
- 出版社/メーカー: ポット出版
- 発売日: 2008/07/18
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- 購入: 9人 クリック: 158回
- この商品を含むブログ (36件) を見る
読むまで知らなかったのですが、著者の田中達治さんは、僕の大学の同じ学部・学科の大先輩であり、筑摩書房でシステム内製に取り組んでいらっしゃったご経歴をお持ちでいらっしゃいました。いろんな意味で大先輩でした。既に他界してしまわれたのが本当に残念で、もしご存命だったらお話をお伺いしたいかったと思いつつ、強いシンパシーを感じながら読み進めていきました。
本の内容はほとんど出版業界の専門的なエッセイですが、システム屋として感ずるものがあった記述を備忘録的に書いておきます。以下、どすこい出版流通からの引用です。
システムは魔法の箱ではない
「共有書店マスタ」は言うまでも無く単なるツールであり、魔法の箱ではない。VANやPOSなどの情報系ツールも同じ事で、それ自体が自動的にビジネスを拡大したり利益を生み出したりすることはありえないのだ。
ツール(広く言えばIT)がもたらすのは多くの場合利便性であって、利益ではありません。なので、それ自体がビジネスを拡大することはないというご指摘に意味があります。ツール自体が進化してより高い生産性を発揮できるようになっているのは、もちろん良いことですが。
弱点を知らないものを活用することは出来ない
私は自動発注が嫌いだ。そのシステムに「自動」という言葉を冠した発想が浅薄だ。「自動」の効力の及ぶ範囲は「売れると決まっているとわかっている定番商品が売れた時に担当者の手を煩わすことなく、すばやく発注できる」という恐ろしく限定されたものである。(中略) システムの有効活用はシステムの弱点を知り尽くすことから始まるのではないだろうか。
これは何かのパッケージとかの「自動発注機能による欠品防止!売上ロスの削減!」みたいな売り文句に対するアンチテーゼだと思います。本当は定番商品をどう決めるのかという所を担当者の手を煩わせず判断する材料を作るのが重要であり、単純に売れたものを補充するだけなら大して意味はない、というご指摘です。「システムの有効活用はシステムの弱点を知って第一歩」という言葉、重みがあります。「文句の出てこないシステムはそもそも使われてないシステム」かもしれません。
ユーザーに気付きを与える
コンピュータが普及し、情報インフラが整備され、自店はもとより全国の売れ行き情報がリアルタイムに把握できるようになった。そうなったのは必然だし、もっと進化することになるだろう。弊社もその辺はバリバリ開発して活用しているので矛盾するようだが、便利になったほどには人間のオツムはちっとも進化していないように思えてならない。いかなる情報も結果に過ぎない。書店も出版社も「まだ誰も気付いていないこと」を探らなくてはいけない。
便利になったほどに人間のオツムがお利巧になっていないのは、昔は自分たちで考えて判断して行っていた業務の情報処理を機械的にこなすことに慣れてしまったからでしょう。便利で使えるシステムを作ったが故に、考えることがあまり無くなってラクをするという指摘。本来は仕事が回るようになってからが進化の始まりになって然るべきなのに、色んなものが足を引っ張る。オープンレガシー、でしたっけか。
自分で内製してシステムを組んでて思ったんですが、良いシステムというのは「こうやって使うんだよ」ということを考えなくても判断できるシステムなのではと思います。判断を加速させることで、業務の流れを自然に覚えることが出来るシステム。自分でも気をつけているつもりでも、どうしてユーザーと業務の間のコミュニケーションをシステムが断絶しちゃうんだろう。
仕事をコンピューターに載せるだけでは、あるところが便利になったけれど別の不便が生まれて、結局ゼロサムになってしまうことが多い。言い方を変えると、メリットとデメリットが別の形で現れる。バックオフィスを強化しても、内的なベクトルが強くなってしまうだけのことが多いので、フロントを強くする為にデータ活用を駆使したシステムを作っていく。自分達でも気付かなかったコトを掘り出していく、ビジネスにつなげていく。そこを忘れちゃダメだなと改めて思いました。