以前、僕はアジャイルって受託開発との相性が最悪な気がする - GoTheDistanceというエントリを書きました。
工程が分断されてしまう開発方式を採用している場合は、よりリアルにシステムのビジネス上の価値を表現して伝えることができるアジャイルのメリットが活かせそうに無いというのが骨子。今でもその思いは変わりませんが、逆に言えば工程分断を脱却して企画から実装まで回せる体制になれば可能性はある、とも思っていました。
そんな中、永和システムマネジメント社様が口火を切られまして、アジャイルのメリットを全面的に押し出したビジネスモデルを発表されました。あくまでトライアルという位置づけですが、この話題は定期的に取り上げたい。
骨子としては、この3つ。
- 初期費用0円(リリースまでの費用は開発側が負う)
- 月々15万〜150万の定額制
- 解約は自由だが成果物は全部引き取り。データだけ提供。
うん、どう考えても最初は大赤字。
「リリースまでの費用を貰わずに受託開発を行う=ただ働き」という図式が頭に浮かぶ。最もコストがかかる工程をお金を貰いませんと言える勇気がすごい。僕ならコンサルティング料は別途頂戴するよう提案しちゃうなぁ・・・。
最も小規模なプランでも恐らく2〜3ヶ月はかかるという読みですから、月75万稼がないとペイしない技術者をどっぷりアサインしたと仮定すると、75万 * 3 / 15万 = 8.5ヶ月の間は「何のチケット発行も無い状態」で赤。ということは、最低1年以上契約が継続しないと利益にはつながらず、しかもそれを複数かけもちしなくてはならないモデルであることは、想像に難くない。
最低利用期間が定められているならこの「ただ働き」リスクは回避できそうなんですが、従来の要件定義ありきのスタイルがもたらすユーザーのデメリットを受託側が無理矢理飲み込んでいるような絵にも見え、同業者としては(大きなお世話かと存じますが)心配になります。怖いなぁ、と。
ソースコードを納品しない故のロックインが心配だいう意見も結構ありましたが、僕は杞憂だと思っています。このモデルは「納得したお値段でお客様の目の前で料理人がうまい料理をお作りします。それでいいじゃないですか。」というのが売りであって、うまい料理に価値を認めるならその料理人に金を払ってくれよ、それが筋でしょうという話だし。それが伝わらないならやらないだけ。レシピの意味がわかる顧客は、内製を検討するでしょう。
このモデルだと、KSFはリリースまでのスピードの迅速化とシステムが継続的進化を促せる動機があるモノなのかの2点になります。今までおつきあいされている業者さんとはこんなにも違うんですよ、と。
何にせよこのモデルを適用したお客様が「システムを導入することにずっと躊躇いがあったけど、いつかはやらなきゃならんと思っていた。おかげで助かったよ!」って感じで会社の事業をITが支えるメリットを享受できればいいなと思います。