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ござ先輩と言われています。(株) クオリティスタートという会社をやっています。

【書評】「業務システム開発モダナイゼーションガイド」を手に取ろう

非効率な日本のSIと聞いては私も反応してしまうので、読みました。結論から言うと、グレートでした。

本書の主題

「はじめに」で書かれている内容を、私なりに要約します。

日本のエンプラ系SIの商慣習(多重請負構造)における『上流』の仕事のやり方が、ほとんど進化していない。多重請負構造におけるエンドユーザーやIT部門、SI関連会社、SIerが近代化しているソフトウェア開発技術の活用を『妨げる』ようなことをしていては、いつまでたってもその恩恵を「エンジニア」が享受できない。変えるべきは開発の現場だ。

上流工程と下流工程という工程の分断は、そこに属する技術者に対してデメリットが非常に強いのは事実です。自分もSIer時代に、プライムで請けた案件と2次請けのSES案件に入った時では、圧倒的に前者のほうが身になりました。エンドユーザーと同じ目的に向かい、ITプロジェクトを近代化したソフトウェア開発技術や手法で成功させてほしいという筆者の思いが、ビンビンに伝わります。

また、「開発」と名を打ってあるように、要件定義〜テストまで幅広く網羅され、「ここだけは抑えておけ、知っておけ」とポイントをまとめたTipsが列挙されており、新人教育にはこの1冊があれば充分ではないかと思います。Microsoftの方が書いた本なので、大人の事情で要素技術についてはMicrosoftテクノロジーを中心に解説されていますが、この本で学ぶべきでは要素技術ではなく開発手法や考え方なので、問題ありません。

本書に書かれている内容を実践している会社はまだまだ少ないと思いますが、「この開発の進め方はどうなの」と疑問を持った若い方に、是非手にとって欲しい本でした。

人月見積が効率化を阻害するのかも

エンドユーザーに対して人月見積をして売値を決めているので、期間短縮すると売上が落ちます。当社はめっちゃ近代化した開発プロセスになったので、今までより30%速く出来るようになりました。なので、30%引かせて頂きます!とはね、なかなか。効率化を促進すれば生産原価が下がるはずので利幅が大きくなるように思いますが、そういうビジネスモデルをエンプラ系SI関連会社が採用していないのではないでしょうか。

「エンド⇔SIer⇔協力(下請)会社」という商慣習も、極端に言えばエンドユーザーが「この技術を使ってこっちで要件出してプロジェクト管理すれば、SIer挟む必要ないね」となれば良いですが、エンド側にITプロジェクトを運営する体制がない気がします。自分の業務があるので、兼務ですよね。兼務だと手を動かすことが少ないので、ノウハウ残らない印象が強い。我々のようにプロジェクトワークだけに100%のリソースを当てられないので、だったら内製すればってなるんですけどね。

製造原価が人件費である以上、人月をやめるのはかなり難しい。顧客企業の課題を個別のシステムを作って解決するのが受託開発なので、サブスクのように「ちゃりんちゃりん」とお金が降りてくるモデルは極めて難しい。効率化するのであれば「要件からリリースまでの デリバリ・プロセス」しか無いのでしょう。

なので、本書が提起してるように、非効率を解消する鍵は開発プロセスにあるだろうなと感じた次第です。DXを推進するには、この本に書かれているように、要件定義〜リリースまでの一つ一つの工程を見直して、チューンナップすることが「急がば回れ」の解決策かもしれませんね。

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