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ござ先輩と言われています。(株) クオリティスタートという会社をやっています。

【書評】システムインテグレーション崩壊 これからSIerはどう生き残ればいいか?

技術評論社の傳様より献本御礼。

工数積算のビジネスは終わる

SIという言葉が指し示す範囲もSESから受託開発まで幅広い中で、著者の斎藤氏は「工数積算を前提としたビジネス全般、請負や準委任などの受託開発やSESや技術者派遣ビジネスも同様に崩壊に向かう」という内容の趣旨が、表紙をめくって1ページ目に書いてありました。アクセル全開です。エンジニア人月0円セールと、ござ先輩に見た未来 - 山本大@クロノスの日記っていう話もあるぐらいですからね。

崩壊に向かう理由は大きく3つあると書かれてあり、最初に挙げられている理由が「工数積算で成果保証を担保されるSIビジネスは、構造的に不幸にしかならない。」というものです。システムを欲しい顧客は「ビジネス上の価値向上」を目的としています。しかし、上限が決まっており瑕疵担保責任を負う立場のSI業者は「決められた仕様を満たすシステムを納めること」が目的となります。このゴールの不一致が構造的に不幸にしかならない理由だと説明されており、古くは2006年に現在ソニックガーデン社の代表である倉貫さんのディフェンシブな開発 〜 SIビジネスの致命的欠陥で指摘されております。色んな人がいろんな視点から同じことを言っていることに意味がありますね。

ビジネス上の価値を目的とするシステム構築が何故出来なかったのかについては、SIer/ユーザー企業双方に非があるということで、その理由については第2章で触れてあります。成果保証を求めるのにエンジニアの工数積算で根拠を出すこと自体がナンセンスではという疑問に触れながら、それにはそうなってしまった理由もあるのだということで。

3章以降は新しいポストSIへの取り組みを紹介しています。既存のビジネスがダメなら、ビジネスモデルを変えるか新しいことを始めるかのどっちかしか道がない中で、両方の道をどうやって歩むのか、実際にどういうビジネスモデルに変えた会社があるのか等、色んなヒントが書かれています。「問題認識→その背景を分析→次はこっち」って感じですごくまとまってるので、通覧するには最適の一冊ではと感じました。

が、これはちょっと待ってくれという提言がありました。「アジャイル型請負開発モデル」の提言です。

アジャイルで請負ってちょっおま

何故この提案が引き合いに出されているのかと言いますと、ウォーターフォール型のように後工程とのつじつまを合わせることが出来ないやり方は必ず歪みがでてしまう。先ほどの構造的な不幸を引き起こす一因である、と。ビジネス価値達成という共通の目標に向かって、重要な機能から先に作ってリスクを低減しながらシステムを育てることを目標に、フェーズを切ってその都度請負契約を結んでゴールの不一致から脱していこうという話でした。聞こえはすごくいいけど、積極的に請負でやろうという会社がどれだけあるのか疑問です。違う形でつじつまが合わない未来がすごく見えたし、仕様が不透明だとしたら工数積算しか出来ないと思います。2人あなたの案件に貼り付けますのでみたいな。

そういう風に考えるとはじめの1ページ目で指摘されていた工数積算前提のビジネスは崩壊するってあれ・・・という矛盾を感じました。このモデルを進めていくことで未来が明るくなるとは言い難いのではないでしょうか。

僕の考えるポストSI時代

本書でも記載がある通り、既存のビジネスがダメなら新しいことを始めるか、ビジネスモデルを改良するかのどちらかの道を取るしか無い。新しいことを始めるのはベンダーでは無くユーザー側になると見ています。新しいIT事業SIerが始めてシェアを取って新しい業界地図が出来るという未来にはなりそうもない。成長ドライバがユーザー側にあるとすれば、以下の様な未来がやってくるのではと思っています。4年前にツイートしていた自分、グッジョブ。

奇しくも昨日、ITProの名物コラム「極限暴論!」を連載されている木村記者が同じ内容の極論(木村岳史の極言暴論! - ユーザー企業がITベンダーを駆逐する:ITpro)を掲載されていました。我が意を得たり、でございました。

僕は主役が変わる未来が一番いいと思ってますが、皆さんはいかがでしょう? 本書をあたりながら次のIT業界の主役は誰になるのかを考えていくのが、一番面白い読み方だと思います。

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