PublicKeyの新野さんが刺激的なエントリを書かれているので、便乗してこれからのSIerの未来像を考察してみます。
顧客にとってITコストの削減はSIerにとって売上げの減少になります。顧客がクラウドのサービスをそのまま利用することは、開発やカスタマイズをすることに存在意義があるSIerそのものを脅かします。
クラウドの存在は、SIerにとって逆風のように見えます。そしてSIerの存在もクラウドの普及にとって逆風なのかもしれません。
日本のSIerはクラウド普及の逆風なのか? - Publickey
クラウドとSIerの価値が相反している為、お互いにとって「目の上のたんこぶ」ではないかという意見ですが、現状その通りだと思っています。開発せずにスムースにサービスを利用できることがクラウドの強みでもありますが、システム運用をクラウドによって完結させることができる故にシステム基盤の構築・運用のビジネスをもっていかれてしまうので、単にクラウドを担いでもSIerにとっては美味しい話ではありません。クラウドに対して「いいぞもっとやれ、お前らが台頭するほどウチも儲かる」と考えているSIerは殆どいないのではないでしょうか。
クラウドの根幹の技術は仮想化です。実はこの仮想化技術こそが「何でもかんでも受託開発」の牙城を崩す大きな要因になったと考えています。
オープン化に伴い「実行環境を一から構築する」ことが是とされていた時代は、システム基盤を自分のコントロールに置くということは非常にリスクが高く割に合わない行いでした。プロに頼むしかないけれど、似たような実行環境の互いに連携の取れないシステムが乱立してしまいベンダーに主導権をじわじわと奪われ始めるようになった。今ではそのせいかオープンレガシーという言葉があるぐらいです。
しかし、2005年ぐらいから仮想化が注目を集め始め多くのパイロット案件がカットオーバーを迎え、「実行環境を作る」という行いがユーザー企業でも可能な仕組みが提供されるようになりました。仮想化は一度うまく回り始めるとその流れを止める理由がなくなります。高いサーバを購入して手間のかかる運用をする世界に戻らないわけで。
ハードウェアを1つのソフトウェアとして動かすことが出来ることの恩恵は大きく、ハマれば大幅なコストダウンと柔軟なITインフラを手に入れることが可能になります。必ずしもIBMやHPのハードを入れなくても良くなった上、ユーザー自身が内製・運用できる環境が仮想化によって整い始め、徐々にそれを実行に移した。昨今では開発プラットフォームすら提供されています。
その結果運用保守のコストを見直し始め、保守のオペレーションを見直して人員を削減する、高いモノリシックなハードウェアを安価なIAサーバに変える、クラウドを活用して安価にアプリケーションを構築運用を行う・・・。そういった傾向が大きな流れになり始めているのが2010年ではないか、と。その結果、従来のSIerは「システム開発をトリガーにお客様のビジネスを運用する」ことが徐々に出来なくなっており、特に中規模の案件が減っているのではと感じます。
で、そのようになってくると1つのシステム構築の相場が下落していくことにつながるので、「単価の低い人を入れてマージン取る」ことも難しくなってきました。さて、どうしましょうか。踊り場のステージそのものが小さくなってきましたよっと。
SIerを退職して1年半経ちますし今の現場のことも勉強会等で聞く限りですが、色々考えてみても「今後のSIerの成長ドライバ」がなかなか見い出せません。「お客様の業務をもっと理解して刺さる提案をしなさい」というのが関の山なのが実情ではと思っております。
先ほども書いたように単純にクラウドを担いでも再販業者になりがちなのでメリットは少ないが、お客様は単なるシステム構築を望んでいるわけでなく、より高い実装力を武器にサービスを提供しなければ価値が見出せない時代になってきています。2008年秋頃に書いたService Integratorになれる日が来るのだろうか - GoTheDistanceという話につながっていきます。
今度SIerは「どの業務をSaaSで賄うのかあるいは自社内で運用するのか」という線引きをコンサルティングして、ITの大きなアーキテクチャを描きながら適材適所のサービス及びシステムを構築するというビジネスを模索し始めるでしょう。業務プロセスを運用するという果実を取り戻す為に。
クラウドになればSIerがなくなるという主張はちょっと違うなと思っていて、システムが当たり前になればプロの存在は益々必要となってきます。その為に必要なのは高い業務分析能力と実装力ですが、その2つを駆使するほど工数が削減されていく傾向にあるので、従来型のSIerは能力の役務提供以外の道が見出せず二重に苦しんでいる状態のように感じます。
クラウド時代を迎えるに当たって、SIerは従来の既製品のパッケージを担ぐビジネスから可能な限り早く撤退し、クラウドを味方につけるべくOSSをハックできる技術者の養成と教育、及びクラウドを活用しているユーザー企業との協業による新しい事業の構築を検討していくしか、新しい成長ドライバは無いと思っております。