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ござ先輩と言われています。(株) クオリティスタートという会社をやっています。

永和さんの「価値創造契約」が大苦戦を強いられている件

この資料、非常に衝撃的だった。中の人がここまで公開していいものなのか、という意味でも。

永和さんの価値創造契約とは

新しい契約形態での受託開発サービス「価値創造契約」 | 永和システムマネジメントに詳しくありますが、簡単にいえば「初期費用無料で、常に改善・運用をしながら月額定額制でシステム利用料を頂く」というビジネスモデルです。価値あるシステムは必ず長く使われ変更を伴うのだから、その変更を受け入られるモデルを提供すれば双方にメリットがある。これが立脚点のようです。

2013年営業実績、0件

資料によればテレアポを800社行い、様々な展示会にも出展されたそうです。12社にコンタクトできたけれど受注は0件だと書いてあります。マーケティングに失敗してしまったと言って良いでしょう。

受託開発の弊害と指摘される「価値あるシステムを作りたいユーザーと、作ることが目的になるベンダーとの間に生まれる、ゴールの不一致」を解決できるビジネスモデルなのに、どうして苦戦を強いられてしまったのか。僕が思うに大きな理由が3つあったと見ています。

謳ってるメリットが伝わらなかった

価値創造契約では、「いつでも解約」「初期費用無料」でソフトウエアの利用するまでの負担をかけないという点がメリットとして謳われています。しかし、資料でも言及されていますが、ユーザーにとっては全くメリットでは無かったと書かれております。解約する前提でシステムの開発依頼をする会社は無い、と。嫌な言い方をすると、いつでも逃げられるように予防線張ってるんちゃうかと勘ぐられることもあるなと感じました。

負担がかからないから良いでしょってのは、「この商品は他のメーカーより安いからお得ですよ」という話と大差がない。極端に言えば価格勝負をしている。割安という点をクローズアップしてしまうと、自分の欲しい価値がゲットできる保証になってない。その商品である理由が説明できていないし、買った後のメリットが理解できない商品を買う顧客はいない。その辺のズレがあったのでは、と。

チケット制がうざい

月額定額なのに従量課金でチケットを売ったのも非常に不自由で、個人的には気に入らない。回数制限があったら、そう簡単に変更依頼は頼めません。もし頼んだ変更を適用した結果、昔のほうが良かったから戻したいという時に新たにチケットが発行されてしまうとなると、デメリットが際立ちます。「ちょっとした機能追加にチケット追加ならやめよう」→「チケットで予防線張っといて何もしてないのにカネを取るのか」にすり替わってしまうんじゃないでしょうか。運用しているから何もしてないわけじゃないけど、心証の問題で。

後から見えない費用がかかる可能性が高いのなら、始めに一括で払ってスッキリしたいというのが一般的な感覚でしょう。

要件定義〜リリースまでの費用をとらなかった

取るべきです。絶対。

WF型でもアジャイル型でも、要件が決定しなければ次の工程に進むことはできません。特に柔軟に変化に対応することを前提とするアジャイル型の場合は、WF型よりも顧客にかかる負担が大きくなるはずです。だからこそ、期間を決めて金銭を発生させることで真摯な議論を積み重ねるようなビジネスモデルにすべきでした。要件定義が遅延すると追加料金出ますよぐらいでもいいでしょう。その後が月額定額なんだから。どの案件でも要件定義は不可避ですし、そこできっちり詰めていればフェーズ分けの議論もしやすいでしょう。

この部分が無料になってしまうと、発注側は「無料だからいつでもいいや、後から考えよう」になりかねないし、開発側は「明確な縛りがないから、詰めたくても押し切れない。非常にやりにくい。」という中途半端な状態になるんじゃないでしょうか。また、このまま進めてリリースして大丈夫かという不安にもつながります。要件定義等のコストをサービスしてしまえば開発者のモチベーションを下げる結果になるでしょう。

上記3点のビジネスモデル上の欠点が大苦戦の背景にあるのかなと思いました。

その他資料に記載されているエピソード(失敗談)は、このモデルに限ったものではないと思ったので取り上げておりません。詳しくは資料をあたってください。

今後の展開は?

どうしましょうかねぇ・・・ まぁ、頂くべき対価の設定を間違えてしまったのなら、価格体系を大幅に見直すべきでしょう。そうなると今までと何も変わらないよって話になりそうだから何とも難しいのだけれども。

長く使い続けられるシステムを育てていくことがWin-Winなのは間違いありません。でも、価値を提供するためには然るべき所で対価を頂く必要があります。今後どのような巻き返しをなさるのか、期待しております。

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