受託開発では技術・人材が蓄積しない、という反論でしたが、そういう受託開発ではいけない、という点では同じ意見です。問題は、どうしたら受託開発で技術・人材を蓄積していくか、ということであり、そこにこそ経営手腕が問われているのだと思います。
受託開発のメリット:キャピタリストの視点:ITmedia オルタナティブ・ブログ
タイトルでメリットと書いておきながら何もメリットについて言及していないので、僕が思う受託開発のメリットを書いてみる。大きく言えばこの2つだと思われる。
受託開発のメリット
- 食いっぱぐれがない
- 深く狭く濃いサービスを提供できる
受託をやる側からしたら、一番のメリットは受注生産だってことだと思います。オーダーメイドで洋服作ってくれっと発注されるようなものですから、作れば必ず売りになりお金が入ります。買い手にとって受託の難しい所は発注したら後に引けないところなんですが、売り手からすると発注がもらえれば受注生産ですからくいっぱぐれが無いんですね。でもって、カタチがないんで各社様々なことを言ってくるわけですが・・・。
またお客様によって自社の業務にジャストフィットすべく、かゆいところに手の届くサービスを求められることもあると思います。オンリーワンのものを望むなら、オーダーメードで作るしかありません。かゆいところに手が届くものを提供するのは、「なんか色々めんどくさくてリスキー」だったりしますけど。受けるほうもほとんど前例が無いので高い専門性が要求される。それゆえに、リピートを頂ける可能性も高まる。
ま、要は、
SIの最大の旨みは「作ったけど売れなかった」がないところにあります。
夢見るSIerと虚構 - GeekFactory
こういうことだと思います。これは、なかなか大きいですよ。
ただオーダーメイドは得てして高級品ですので、既製品に比べてコストは高くなりがちです。コンシュルジュが張り付くようなものですから、基本的にハイエンドなサービスです。
翻って、デメリットはこんなところじゃないでしょうか。
受託開発のデメリット
- ノウハウが個人に集約され組織として蓄積されにくい
- 作れば売れるけど、商品設計の力は蓄積されにくい
- カネが続かない
受託はノウハウが個人に集約される傾向が強いです。何故かといえばみんなが同じものを使っているわけじゃないので、構築環境も異なるし、システム仕様も異なります。パッケージやってる所もあれば、OSS使っているところもあれば、昔から使っている自社ライブラリがあったりする。受託の案件ごとに求められるものが違います。簡単に言えば、部署の中でノウハウは閉じられちゃって「たまたま」そのメンバーが持っている「俺便利ライブラリ」をみんなが各自に使っている感じじゃないですかね?
いや、もちろんその辺は色々標準化に取り組んでおられるでしょうが、現場には現場の事情があるので、なかなか思うように進まないと思います。再教育のコストもかかるし、「別に今まで使ってるヤツで問題ないだろ、顧客の要望を満たすのには」と突っ込まれると新橋で飲もうかという流れになりそう。
2つ目についてですが、受託開発というのは顧客の要望が前提にあるやり方なので、「What」の骨格ぐらいは見えるわけです。それをカタチにするのは優れた技能が求められますけど、基本的にはその骨格に肉付けをしていくイメージ。しかし、独自性に優れた新たなソフトウェアを作る場合は、Whatの骨格も何も見えません。サルがいいのか猫がいいのか、実はカブトムシでした、とか。一番の問題は作っても売れるかどうかわからないことですね。
また、何かを生み出すエネルギーを受託開発の継続で培うことが可能なのかといえば、難しいといわざるを得ないでしょう。だったら今頃日本の大手SIerには世界に打って出ることが出来るソフトウェアの1つや2つ、あって然るべき。
3つ目は大迫さんのこちらのご指摘の通りだと思います。
受託開発で利益を上げたとしても、長期にわたってその利益を研究開発に地道に振り向けることは不可能です。毎月の給与から天引きで預金を積み立てなければお金がたまらないのと一緒です。
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受託は作ったらそれで終わりです。継続的に案件があるとしても、それは2年〜3年立ってから。元も取ってないのにバンバン新規でオーダーメイドの発注を頂けるとは思えないし・・・。ま、要は、狩りと同じですね。獲物を捕まえたら別の獲物捕まえないと空腹で倒れちゃう。
ITのビジネス上の最大のメリットはコンテンツの複製が非常に安価なことですから、受託開発が叩かれるのはその長所を殺していることに尽きます。受託の中で世界が閉じちゃうから色んなノウハウも閉じられて生産性も低いし、オープンなはずのITの「最も美味しいところ」を殺してなんになる、だから技術者のキャリアも貧しくなるんだ・・・っていう絶望論ですね。
物事は総じて二面性を持っています。メリットもあればデメリットもあります。受託でなければ実現できないこともあるでしょうし、受託やってたら逆立ちしても無理ってこともあるでしょう。
だから、どっちに舵を取るのかってのがすごい大事だと思います。受託も自社製品も両立させるのは無理だと思います。子会社なり別会社なりで、専門化させたほうがいいかなと。
独自性あるソフトウェアを作るためには資金が無いとどうしようもなく、いわゆるVCの方々の手を借りなくてはならないこともあると思いますが、この不景気ですから余計受託開発で耐えしのぐ方向に向かう会社が多くなると思われるので、VCの方々も頭を悩ませているところかなと思います。
がんばれニッポン!